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nn5n: scp-2019-JP 溶明の日
EuclidSCP-2019-JP 溶明の日Rate: 83
SCP-2019-JP
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SCP-2019-JPの発見場所

アイテム番号: SCP-2019-JP

オブジェクトクラス: Euclid Neutralized

特別収容プロトコル(2019/03/31更新): SCP-2019-JPは消滅し、Nerturizedクラスに再分類されました。以後の管理はサイト-81NNに引き継がれ、使用されていた収容施設の解体やニューエイジ光学的探査装置を用いた再調査などの事後措置が行われます。詳しくは2019-JP/Neutralized分類後管理マニュアルを参照してください。

SCP-2019-JPは移動が困難であるため、当オブジェクトを中心とした半径5mのエリアに簡易的な収容施設を建設し、カバーストーリー「工事中」を用いて民間人の侵入を防ぎます。施設内はニューエイジ光学的探査装置によって常に監視し、SCP-2019-JPの行動や消滅のペースに変化がみられた場合は直ちに報告してください。

担当エージェントは養老-天平年間を中心とした奈良時代への史学的見地・同時代に対する文学的素養などによって選出されます。担当エージェントは光学的霊視スコープを装着の上、アシヤ非実体干渉装置を通した筆を用いて一週間に一度SCP-2019-JP-Aにインタビューを行い、歴史学情報管理・研究部門に記録を提出してください。

説明: SCP-2019-JPは福岡県太宰府市に出現しているクラスB-void霊的実体1及びそれに付随するクラスD-void霊的実体2群です。財団由来の技術などを用いた異常な手段によってのみ視認が可能であり、以下の要素によって構成されています。

要素 分類 補足
SCP-2019-JP-A B-void 後述。
筆記用具 D-void 天平年間に使用されていた筆・硯・墨で構成される。
D-void 同じく天平年間に使用されていた穀紙。
文机 D-void 同じく天平年間に使用されていた経机。

SCP-2019-JP-Aは80代前後と推定される男性の右腕です。通常は詩歌を試作・推敲するなどの行動をとっており、アシヤ非実体干渉装置を通した筆記用具を用いてD-void霊的実体である紙に書き込む形での筆談が可能です。これらを基にした鑑定3により、SCP-2019-JP-Aは"山上憶良4"として知られる人物の右腕であると判明しています。

使用されている紙は文机に一定量補充されており恐らく無限に出現しますが、SCP-2019-JP-Aはごく微量ずつながら消滅しており、このまま進行すれば二十年足らずで消滅しきるとみられています。また他にも文字を書くごとに消滅のペースが早まっていると推定された為、オブジェクトの研究に足るインタビューを終えた後は、保護の観点からSCP-2019-JP-Aの執筆を阻止する計画が立てられています。

SCP-2019-JPは新規に開発されたニューエイジ光学的霊体探査装置の試行中に発見されました。作用力の希薄さから当初はAnomalous分類される予定でしたが、史学的見地をもとに研究の継続が提言され、改めてSCP-2019-JPに指定されました。

以下はSCP-2019-JP-Aへの特筆すべきインタビュー記録の一覧です。やり取りは全て万葉仮名で筆記されており、報告書に記載するにあたって現代語訳されています。

こんにちは。


あなたが私をこのようにした神か あるいは天魔か?


いいえ、私はお話を伺う為に訪れた人間です。
あなたの事をお教え頂いても構いませんか?


人間 私と同じ死者でもなく人間か。
私が見えていたのか?


特殊な手段を用いて以外は視認できませんでした。
あなたは今、あなたがどのような状態か理解していますか?


もう右腕しか残っていない。最初は五体満足だった
今は天平から何年経っている?


およそ千三百年です。
お名前をお教え頂けますか?


山上憶良
すまないが時間が無い。
聞きたい事があるのなら代わりに頼みがある。


何でしょうか。


これの批評をしてほしい。
読んで感じたことをそのまま伝えてくれるだけでいいんだ。

これはどうか。


技巧は細かく施されていますが、
それもあり文の感情が伝わりにくくなっていると感じます。
二つの釣り合いがとれていない印象というか


そうか。
文の意図は伝わっているだろうか?


挽歌5だと解釈して読みました。
奥方へ宛てたものでしょうか?


いや 卿に 大宰帥6の死を材料にしたものだ


それはあなたがこういう状態になって何作目に書いたものか、覚えていますか?


一作目。


千三百年間その挽歌を推敲している、ということでしょうか?


そうだ。どうしても書けない。納得のいく出来にならない。

貴方が来てくれたのは助かっている。
千年を空けて、初めて拙作を他人に見せた時のことを思い出したよ。

今回はどうだろうか。


悲しんでいるのは伝わりますが、少し表現が婉曲かと思います。


婉曲か。そうだな


現実感がないと言いますか
あなたがこうなった理由に心当たりはありますか?


確信ではないが

私は仏教徒だった。仏教は永遠を否定するものだが、私は永遠を願った。
延命できるのなら目や耳を削いでも構わないと歌ったことすらある。

その結果なのだろう。


結果とは、願いが叶えられたという事でしょうか。


どちらかといえば天罰だと考えている。
文字を書く度、私は痛苦を受けた。身体を削がれ、こうして右腕のみとなっている。
視界は全くの暗闇で、認識できるのは紙に書かれた文字だけだ。

私が延命を諦めた時、私は真に死ぬのだろう。
この苦しみから解放されるのだろうが、

私はこの詩作を止まない。


何故そうまでして延命を?


意味を残したかった

士やもむなしくあるべき万代に

文の修飾が畳み掛けるようで勢いがあり、読んでいて惹き込まれます。
しかし何か 違和感を感じて、そこが気にかかりますね。

違和感か。どのようなものだ?


数回前のものと同じなのですが、どこか現実離れしている気がします。
千年近く間が開いている為に実感が薄れているという事はありませんか?


現実か
いや、あの煩悶は今も色濃い。しかし



どうかしましたか?


貴方は生きているのだな。

技術的な完成度は頂点に達していると思うのですが、
受ける印象がいまいち変わっていませんね

そうか
停滞してしまったな


どうしてこの挽歌を作ろうと?


それは
この悲しみを詩に あの人に追いつ 違う
違う


答えにくい事でしたら構いませんよ。


忘れられることが怖かったのだろう



それはあなたが?


あの人が


あの人とは、大宰帥のことでしょうか。


あの人の才は素晴らしかった。作品も。そして死んだ。

永遠のものは無いと御仏は説いた。人が永遠を望むのは無意味だろうか
死ねば全ては忘れられ、私もあの人も忘れられゆくものだろうか
詩作に注いだ心血はすべてが無駄なものだったか


落ち着いてください。
作品の停滞に関しては徐々に考えていけば


その理由も本当は見えていたんだ

死は私にとって 近いものになりすぎた

補遺1: 2019/02/27、SCP-2019-JP-Aへの第██回目インタビューにあたり、SCP-2019-JP-Aが通常と異なる長文を書き出しました。これにより消滅までの時間は短縮され、SCP-2019-JP-Aはおよそ一ヵ月で消滅すると推定されます。以下はSCP-2019-JP-Aが書き出した文章であり、インタビュー記録と同様に現代語訳の上記載しています。

もし浄土に行けたのなら、右腕の無い私が卿をさぞや驚かしていることだろう。

人は皆、死後にやり直す機会がある事を願っている。
しかし生がやり直されることは決してない。
全ては遅かったと、千年を過ぎてようやく気付いた。

生前、筆をとって最初、私は後世に残るようなものを書こうと思った。
最初に出来上がったのはひどいものだった。光る所もあるにはあったが、今思い返せば兎角稚拙だった。

散々な評価を貰って私は落胆した。しかし好意的な評価も少なからずあった。そのためか、単にもっと良いものを書いてやると私の魂が奮起したからかはわからないが、とにかく私はそれからも書き続けることができた。文壇に挨拶だけして詩が纏まらずに止める者もいるから、それだけでも私は幸運だった。
評価を受ける為、今までの作品を超える最上級に良いものを、と考え抜いた。自分より良いと思うような作品が出ればやきもきしながら爪を噛んだ。

ある作品は多くの評価を受けたし、またある作品は名のある歌人によく気に入られた。無論、渾身の一作が振るわなかったことも、芥と消えたこともある。

それから私はそこそこに作品を残したが、大宰府に左遷されてあの あの人の作品に出会った。
あの人は大宰府に来て間も無く、それとほぼ同時期に妻を亡くしていた。その死を材料にあの人が書いた挽歌はあまりに直接的で、婉曲した表現に欠いていて 悲哀が何より真っ直ぐに伝わってくるものだった。

誰かの書いた素晴らしい詩歌を見て、私もそういった表現がしたいと願い、初めて筆を執った事を思い出した。追いつくべき背中をあの人に見て、その夜すぐに取り掛かった。手は震えた。それが喜びか、嫉妬か、あるいはもっと複雑な感情から来ているかは未だわからない。

私はあの人に自己を投影し、死を悲しみ、世の無常さを嘆く詩を書いた。
仏法に全く反する歌だ。それでも極楽浄土におわす御釈迦よりあの人の悲嘆が、私には尊いものに思えた。

そののちに私の作品の質が上がったかは周囲が決めることだ。しかし私の意欲は少なからず向上し、左遷された先であるところの大宰府での暮らしを実に楽しく過ごすことができた。
梅花の宴などは特にそうだ。白粉を塗したような梅が、香りとともに あの人の盃の酒の水面に落ちて、皆で笑ったのを覚えている。

あの人は私より六つ年若かったが、死んだのは私より前だった。
大宰府の暮らしが楽しいものとはいえ、都に帰るのは皆にとってかねてよりの悲願だった。それが叶ってすぐあの人は死んだ。私が都に戻る少し前の事だ。

あの人が都へ帰る時、私は宴で歌を三つ作り、それから私的な歌を四つ贈った。
あなたを見送っている今も寂しいが、本当に寂しいのはあなたが都に帰ってすっかりいなくなった時だろうという歌と、都に帰ったら私を召し上げて都に連れ戻してくださいませんか、という、まあ戯れの歌だ。

その時私の本意は後者にあった。しかしあの人の死の知らせを受け、私は前者の歌を思い出した。
私の心臓は丸ごと失われたようにも、石を詰め込んで重さを増したようでもあった。都に帰れど大宰府で酒を飲めどあの人がいないという最も単純な事実を、私はとうとう受け入れることが難しかった。

あの人が細君を喪ったとき書いた挽歌は、これと同じような心持を受けて書かれた筈だった。なればこそあの人の歌はあれまでに心を揺り動かし、私にあの挽歌を書かせた。私はそれを書いたとき、全くもってあの人の心情になりきったつもりであった。

何もわかってはいなかった。私はあの人が死んで何も書けなかった。己の絶望を、直裁にも婉曲にも表せなかった。何を書いても陳腐になった。
あの背中がどこにも見えないことが無限の暗闇となって広がり、私を悴ませた。

死の淵に至るまで、私は歌をもういくつか残した。死を恐れるものだ。太陽を翳らせた死を恐れた。何より怖かった。しかしいよいよ死は私に手を伸ばし、そこで私は、もう一度最初を思い出した。

八十年を詩作に捧げた。当世に名を遺した唐国の偉人に憧れ、追いつく為に。
私の人生をすべて捧げて、私はその髪先のみでも掴めただろうか。名を残せたか いや、私は尚、非才な身であった そこまで考えて私は怖くなったのだ。
あの人は。あれまでに悲嘆を 喜劇を、風雅を歌い上げたあの人を、世は記憶しておくだろうか?
あの才すらも忘れ去られてゆくとしたら そう考えるだけで、かの交歓の日々が泡と消える心持ちだった。

そして私は、気付けばここにいた。詩を書くのに必要なものだけがあった。そうさせた私の執念を、私は恐らく正確に理解していた。あの人の挽歌を書く為だ。万代に、私とあの人の名を遺すためだ。

文字を書くごとに身体は苦痛とともに消滅した。足の小指が塵のように消えることもあれば、目や鼻が落とされるようになる事もあった。その度に私は苦悶したが、尚もあの人を喪失した虚無は上回った。

あれから千三百年とは、時間を随分と無為にしたものだ。

悲しみは薄れず、かといって文字は形にならなかった。
水の中で水を見ることが出来ないように、死の中で死を見ることは出来ない。かの悲嘆を歌にできるのは死に恐れる生の中でのみだ。

これを書き上げられないのは、どうしても悔しい。
私の心や頭をまるごと文章に表してくれるものがいればいいのに、と何度も思った。笑うだろうか。しかし、とうの昔に時間切れだった。
この苦痛と延命に意味はなかった。意味を残す事ができたのは、あの日息をしていた私達だけだったのだから。

あの日々は万代に遺るものになっていただろうか。
忘れ去られ、塵と消えゆくものだっただろうか。

最後だ。

全ての生者は、かつて斃れた偉人の誰よりも優れている。
謗られど詰られど書き続け、書き抜くことは何よりも素晴らしい。

それが自らの世界を再構築する。そしてその軌跡を誰かがなぞり、きっと永遠となる。
私はそれこそを信じて止まない。

補遺2: 2019/03/31にSCP-2019-JP-Aは消滅、同時に他のSCP-2019-JP群も消失し、オブジェクトクラスはNeutralizedに仮分類されました。

補遺3: 2019/04/01に発生した事案7により、SCP-2019-JPにおける新たな異常性の発現を危惧した調査が行われました。結果、当事案には何の異常性も関わっておらず、事案の前日にSCP-2019-JPは完全に消滅していた事が改めて立証され、正式にNeutralizedへ再分類されました。

page revision: 8, last edited: 16 Feb 2020 16:41
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