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nn5n: scp-3713 世界の全てがステージ
KeterSCP-3713 世界の全てがステージRate: 127
SCP-3713
getmeoutofhere.jpg

SCP-3713-18終了後にPoI-3713の携帯電話から復元された画像。ファイル名は"notanexit"。

アイテム番号: SCP-3713

オブジェクトクラス: Keter Neutralized1

特別収容プロトコル: ロバート・ドレル博士はPoI-3713専任のサイコセラピスト/カウンセラーとして、月一回以上の頻度で面会を行います。必要に応じて、視聴覚を介した各種コミュニケーションツール2が活用されます。異常現象の発生またはその兆候が確認された場合、ドレル博士はその進行状況を直ちに報告する義務があります。そのような報告が不要である場合、倫理委員会の指示に基づき、面談の内容は秘匿され、記録に残されません。

SCP-3713イベントの際、影響範囲内の交通は軍事訓練を名目として外部に誘導されます。SCP-3713イベントが察知された場合、基本的な視聴覚記録機器を携えたDクラス職員のチームが配置され、イベントの記録にあたります。

事象に関するあらゆる記録は公の場から除去されます。目撃者およびSCP-3713-A実例は標準手順に従い記憶処理を施されます。全Dクラス職員は直ちに回収され、取得された映像は詳細に分析をされます。

説明: SCP-3713は、 1898/11/17から2015/08/07の期間に北緯49.90°, 西経97.14°(カナダ、ウィニペグ)から北緯18.24°, 西経66.04°(プエルトリコ、カグアス)までの区間で発生した一連の現実崩壊イベントです。各イベントは合衆国政府により法的に認知されている都市でのみ発生し、該当都市の境界から1km外側までの領域に影響を与えました。一度に影響される都市は一つに限られていました。

SCP-3713イベントの発生に伴い、住民(SCP-3713に指定)の各々は自身がミュージカル・プロダクションの一員であるかのように振る舞うようになります。ここで、舞台と道具は現実に存在する街そのものです。SCP-3713イベントの脚本は事例間で差異がありますが、事象に先立って発生した出来事に概ね依存しています。一例として、SCP-3713-13の主要なストーリーはイベントの数週間前から計画されていたクリスマスパレードの中止に関するものでした。4名から6名の人物(SCP-3713-A Primeに指定)で構成されるランダムな集団がプロットの主演者となり、多くの場合に5名から10名の助演者を伴います。

領域内に新たに侵入した物体や人間はオブジェクトの影響下に置かれ、徐々に舞台道具あるいは演者に変化します。物体に対する影響は即時的に現れ、人間に対する影響は5分から6時間をかけて現れます。後者の影響速度は、SCP-3713-A Primeからの距離に応じて変化します。SCP-3713-A Prime実体が一箇所に集中している場合、影響速度はより大きくなります。イベントの終了に伴い、約99%の物体および人間が曝露前の状態に戻ります。

SCP-3713イベントは大まかなプロローグ、第一幕、インターミッション、第二幕に沿って進行しますが、場合によっては二度目のインターミッションと第三幕を伴います。SCP-3713の異常影響が最初に現れる段階がプロローグに指定され、その開始時に多くの物体が舞台道具に変化します(厳密な測定は困難であり、不確定な要素が含まれます)。プロローグの開始と同時に、SCP-3713-A実体の大半は複雑な感情表現を行う能力とコミュニケーション能力を失います。インターミッションは、SCP-3713-Aの全員が(属する家を持つ場合)帰宅することにより特徴付けられ、次幕の開始時に0名から18名の演者が瞬間移動します。劇の完結後、SCP-3713-Aの全員がSCP-3713の境界部に集合し、礼を行います。

礼が終わった瞬間にSCP-3713の影響は消失します。各SCP-3713-Aは帰宅し、翌日以降は通常の行動に移ります。未知の反ミーム効果により、SCP-3713-Aであった人間はいずれもSCP-3713イベントを異常なものとして認識しません。一回以上の記憶処理を施されたSCP-3713-Aに異常性は見られません。

補遺3713-1 | 記録されたSCP-3713イベント一覧の一部抜粋3

イベント 場所 プロット 備考
SCP-3713-7 ウィスコンシン州、ホートンヴィル・1937/06/19 SCP-3713-A Primeの主要人物が特定された初のミュージカル公演。主役は幼い男児であり、養育者の祖父母からの虐待に耐えながら生活していた。彼はホウ族を名乗る小型(高さ8cm以下)の人型実体の集団と出会う。男児は集団の長となり、使役したホウ族を用いて祖父母を殺害する。力に溺れた同男児は悪役へと転向し、町長として町を支配することを試みる。イベントのクライマックスにおいてホウ族は男児に反逆し、最終的に独立を勝ち取る。 ホウ族を名乗る実体は収容され、SCP-████に指定された。
SCP-3713-11 オハイオ州、ガルポリス・1963/04/04 SCP-███が収容違反を引き起こし、複数の研究員を負傷させた。主役となる機動部隊ラムダ-14"エキストラ軍団"はチームの生存とオブジェクトの再収容を図る。ストーリーの進行に伴い、サイト-██管理官が世界征服を目論んでSCP-███を解放したことが判明する。機動部隊はSCP-███とサイト-██管理官について情報を集め、双方を罠にかける計画を立てる。楽曲(『何故諦めないか』というタイトルで、SCP-███、サイト-██管理官、機動部隊のメンバー全員が歌唱)と共にクライマックスは進行し、機動部隊はSCP-███の再収容と管理官の拘留に成功する。 イベント影響下の複数のSCPがプラスチックのレプリカに置き換えられ、元の異常性を喪失したため、Neutralizedに指定された。SCP-███は成功裏に再収容された。
SCP-3713-16 ノースカロライナ州、ブリックヘイブン・1995/09/28 イベントは銀行強盗を主題とした楽曲で始まる。犯罪調査にあたっていた警官は、紆余曲折を経て麻薬組織に潜入することになる。4続いて、ストーリーの焦点はD-590300(記録機器を携えて送り込まれた)に移る。住民らはD-590300がどこから来たのかと尋ねる。これに対してD-590300は歌で答え(曲名『暗闇の中で生きる(光の下で生きられるように)』)、住民らは彼女を救世主と見做し、カルト教団を創設する。

D-590300は住民らの崇拝を辞めさせるように試みるが失敗し、公の場から隠れる為に麻薬組織と手を組む。教団が彼女の逃走後も崇拝を続けたことから、潜入していた警官は信者に向けて歌で説得を試みる(曲名『誰もDを欲しがらない』)。最終的に信者らはローブを焼き捨て、通常の市民生活に戻る。警官が組織に気に入られたことにより、銀行強盗で奪われた金は回収された。
収容手順の変更は無し(レベル4/3713職員の議決は19対10で現行手順の維持を支持)。記憶処理は適切に施された。
SCP-3713-18 プエルトリコ、カグアス・2015/07/26 イベントは極めて豪華な学生劇についての発表から始まる。SCP-3713-A Primeはオーディションへの参加を予定する友人関係の生徒数名で構成される。カミラ・マルケスとエリック・パンティロを除いたメンバーの全員は、オーディションへの参加を妨げる様々な障害を乗り越える。例外の二人は、互いに好意を向けながらも相手の感情に気付いていなかったことが歌曲を通じて明らかとなり、相手の存在を理由に劇への参加を拒んでいたことが判明する。

脇役を伴って、カミラとエリックは繁華街に導かれる。そこで多人数のSCP-3713-Aとカミラを除いたSCP-3713-A Prime全員が参加する大規模な歌唱が行われる。歌唱の末、エリックは勇気の不足によりに告白に失敗する。しかしながら、カミラとエリックは劇に参加することを決断する。第三幕は劇の上演を主な内容として、エリックが最後の場面でカミラへの告白を行う。
通常の行動からの逸脱が見られた唯一のイベント。詳細は補遺3713-2参照。

補遺3713-2 | SCP-3713-18イベントの更なる詳細
SCP-3713-A Primeの一員でありながら、カミラ・マルケス(PoI-3713に指定)はイベントの際に一度も歌唱に参加せず、複数のシーンにおいてSCP-3713の想定されたプロットを逸脱する行動を取りました。イベントの序盤では平静を保っていたものの(友人らが悪戯を仕掛けている、あるいは劇の練習を行っていたと考えたためか)、彼女は続く歌唱パートの多く(特に大人数の関与するもの)で恐怖と動揺を示しました。SCP-3713-18の大部分でSCP-3713-A群は彼女の態度を無視し、通常の演技が行われているかのように振る舞いました。

PoI-3713は第三幕の終盤で歌唱中のSCP-3713-Aに取り囲まれ、集団と共に移動することをを強いられました。強い混乱を示した彼女は、群衆から抜け出し、カグアスの南方のグアヤマに向かって走り出しました。PoI-3713がSCP-3713-18の境界に接近するに従い、影響領域は彼女の前方約1kmに渡って拡大しました。

グアヤマに到達すると、PoI-3713は1000人以上のSCP-3713-Aの集団に遭遇しました。実例は全員が歌唱しており、歌詞のメインフレーズは「誰かが怠けている」5でした。PoI-3713は群衆に持ち上げられたものの、窓を割って建物に侵入することで拘束を脱しました。三階建ての建物の屋上に到達したPoI-3713はその場所に約一時間留まったものの、SCP-3713-Aが換気装置を伝って屋根に到達し始め、PoI-3713は後ずさることを強いられました。最終的にPoIはその場で振り返って下へ飛び降りました。

地面と衝突する直前にPoI-3713は消失しました。消失から3時間後、SCP-3713の全事象が停止しました。約72時間に渡って同じ場所に立っていたカグアスのSCP-3713-Aは、脱水と栄養失調の症状を示しました。PoI-3713の脱出の試みの際に生じた交通事故や出血により、18名の死者が発生しました。大規模な記憶処理および偽造情報頒布が実施され、医療人員が負傷者の手当を行いました。

PoI-3713は無意識の状態で道路上に再出現しました。頭に複数の痣、前腕に複数の大きな切り傷がありましたが、原因は不明です。PoI-3713は直ちに集中治療を施されました。2週間の治癒期間の後にPoI-3713は社会復帰し、財団のセラピストが宛がわれました。発見以来、SCP-3713は映画・劇・日光に対する恐怖症と、PTSDの症状(基本的に前述の三種の恐怖症に起因する)、写真と映画に対する著しい興味(恐怖症にも関わらず)を示しています。PoI-3713の精神状態を考慮し、母親のセシリア・マルケスには事象に関する情報の一部が情報漏洩に関する警告と共に提供されました。執筆現在、新たなSCP-3713イベントは発生していません。(最終更新: 2024/08/09)

補遺3713-3 | PoI-3713の集中治療時に回収された情報
一週間の治療の後、PoI-3713は会話が可能な状態になりました。直ちにインタビューが実施され、以下の通りに記録されました。

インタビュー担当: ロバート・ドレル博士
インタビュー対象: PoI-3713、カミラ・マルケス
実施日: 2015/08/08
付記: PoI-3713は部屋の中心の医療ベッドに横たわっていて、右隣に椅子が、左隣にドアがある。インタビューはスペイン語で行われ、簡便の為に日本語に翻訳されている。元の記録を閲覧する場合、SCP-3713研究主任あるいは4/3713クリアランスの任意の職員に問い合わせること。

<記録開始>

(ドレル博士はクリップボードと紙とペンを携え、静かに入室する。)

ドレル博士: カミラさん、こんにちは。私はドレル博士と言います。どうぞロバートと呼んでください。過去数日に起こった出来事について、少し伺いたいと思うのですが、よろしいですか?

(PoI-3713はドレル博士を見つめるが、返答しない。)

ドレル博士: いくらでもゆっくりと話して構いませんし、今日一日で言い終える必要もありません。(間。)あなたがやりやすいペースで大丈夫です。それで問題ありませんか?(間。)座ってもよろしいですか?

(PoI-3713はドレル博士を見つめるが、それ以外の反応は見せない。無反応を確認し、ドレル博士はPoI-3713のベッドの傍に座る。)

ドレル博士: 私たちはただ、何が起こっているのかを知りたいのです。皆がとても混乱しています。どんな形の協力でも、最終的には私たち全員の助けになるでしょう。

(PoI-3713はドレル博士を見つめ続ける。15秒に渡って反応が見られないことを受け、ドレル博士はクリップボードに対象の状態を書き留める。)

PoI-3713: あなたは歌ってない。

ドレル博士: はい。誰も歌ったりしません。歌は終わりましたし、誰も演技をしていません。

(PoI-3713はドアの方を向き、英語で"exit"と発音するように口を動かした。)

PoI-3713: 私は外?

ドレル博士: はい、あの場所の外にいます。ちゃんと出ていくことが出来ました。ここなら安全です。

(PoI-3713は再びドレル博士の方を向く。)

PoI-3713: 外はある?

ドレル博士: そこのドアを通りぬけて、廊下を下って、右、左と一回ずつ曲がってエレベーターで昇れば、そこが外です。太陽と花と雲を見ることが出来るでしょう。

PoI-3713: 出来る?

ドレル博士: 体が良くなればですが、いずれは。色々なことが元通りになるでしょう。

PoI-3713: これは現実?

(PoI-3713は再びドアに目を向ける。)

ドレル博士: はい、現実です。貴方と私がそうであるように、本物です。開けて見せることも出来ますよ。

(PoI-3713はドアを見つめ続け、"búhos"(日本語でフクロウ(複数形))と発音するように口を動かす。PoI-3713がドアを見つめる間、ドレル博士は立ち上がってドアに近づく。ドレル博士はゆっくりとドアを開く。PoI-3713はドアを見つめ続ける以外に反応を見せない。)

ドレル博士: これで証明になりますか?

(PoI-3713は頷く。ドレル博士はドアを閉じ、席に戻る。)

ドレル博士: 気分はどうですか?

PoI-3713: (ドアから目を離さずに。)怖い。

ドレル博士: ここはちゃんと安全が確保されています。私たちがそうしました。何も怖がることはありません。

PoI-3713: 見られてる。

ドレル博士: 誰に見られているのですか?

PoI-3713: (PoI-3713はドレル博士の方を向き、囁き声で答える。)観客が。

ドレル博士: どのように見ているのですか?

(PoI-3713は返答せず、ドレル博士を見つめ続ける。ドレル博士は、記録の為に置かれている部屋の隅のカメラを指差す。PoI-3713は首を横に振り、ドレル博士の目をそれぞれ指差す。)

ドレル博士: 私が見ていない方が居心地が良いでしょうか?

(PoI-3713は再びドアに目を向ける。)

ドレル博士: インタビューはまた今度にしましょうか?

(PoI-3713は依然として反応せず。ドレル博士は記録を書き留め、立ち上がり、ベッドの反対側に移動してPoI-3713の前で膝を付く。PoI-3713はドレル博士を見る。)

ドレル博士: また明日ここに来ます。良いですか?(間。)何か出来ることがあれば、言ってください。ここの医師や看護師にロバートを、あるいはドレル博士を呼んで欲しいと言えば、出来るだけ早くここに来るようにします。皆があなたの助けになってくれます。(間。)良いですか?

(PoI-3713は返答せず、ドアに視線を戻す。ドレル博士は立ち上がり、退室する。)

<記録終了>


以後のインタビューでも新たな情報は得られず、PoI-3713は依然としてドアへの強い興味と不安症全般の症状を見せました。PoI-3713が有するSCP-3713に関する知識と独特な精神疾患を考慮し、倫理委員会はPoI-3713に記憶処理を施さずに社会復帰させ、財団所属のセラピストに状況の推移を報告させることを決定しました。本対応は執筆時点の今日まで継続しています。(最終更新: 2024/08/09)

PoI-3713の携帯電話からは、「⊙ ⊙」と題されたビデオファイルが回収されました。携帯電話の性能にも関わらず、ファイルは3840 × 2160、120FPS、18分26秒のフォーマットで、容量を3MBしか占有していませんでした。撮影開始時刻は7月31日の23:48であり、SCP-3713-18で最後にPoI-3713が消失した時刻と一致します。映像は所々で時間が前後し、複数の位置から撮影されたものであると推察されます。

<転写開始>

00:00 | 映像はPoI-3713の悲鳴と共に始まり、0:01に悲鳴が止む。画面は真黒で、空調の音だけが聞こえる。弱く、強張った呼吸音が辛うじて聞こえる。

00:18 | ガサガサという音が聞こえ、続いて重い物が倒れるような音がPoI-3713の啜り泣きと共に聞こえる。30秒間に渡って空調の音だけが続く。

00:50 | カーテンが開かれ、窓と思しき開口が露わになる。画面の左の方から弱い青色の光が注ぎ込む。PoI-3713の呼吸が速まる。窓の前面に人影が現れるが、それがPoI-3713なのか、また窓のどちら側にいるのかは不明である。

00:58 | 画面全体が白に転じ、2秒間の無音。

01:00 | 画面はPoI-3713の視点であると推測される(手が複数回映り込んだことから、両目が視点であることが示唆される)。異常に広大なバックステージで、PoI-3713は正体不明の追跡者から逃走している(3人分の足音が聞こえる)。上方の不明な光源が弱い光を発し、両側で続いていると思われる黒色のカーテンを照らす。

01:19 | 複数回の方向転換の末に、PoI-3713は廊下の終点にある、はっきりと照らされた緑色の出口標識があるドアに遭遇する。PoI-3713はドアへ駆け寄り、開けようと試みるが失敗する。PoI-3713は小声で"por favor"(お願い)と繰り返し囁き、背後の廊下の方へ振り返る。角の向こうから一人分の裸の両足(足首より下の部分)が映り込み、映像が途切れる。

01:21 | 画面全体が白に転じ、3秒間の無音。

01:24 | ステージを映し出すカメラの視点に移って、映像は突然に再開する。ステージは薄暗い。下方の観客席と思われる位置から微かなガサガサという音と囁きが聞こえる。言葉は判別されない。以上が3分間継続。

04:34 | 映像が途切れ、PoI-3713の視点に移る。PoI-3713は薄暗いバックステージエリアと思われる場所を走り抜けている。PoI-3713は積み上げられた箱の山の後ろでしゃがみ、足を抱え込む。箱の後ろから大量の足音が聞こえ、無音になる。3分間に渡ってPoI-3713の強張った呼吸音だけが聞こえる。

07:50 | PoI-3713は箱の山から顔を出し、硬直する。暗闇のなかで、PoI-3713を真っすぐに見つめる人型が視認される。人型はフクロウの面をかぶっている。人型は10秒あまりPoI-3713を見つめ、後退し、画面から消える。

08:14 | PoI-3713は左方の足音に反応してその場から飛び出し、反対方向へ走り出す。

08:15 | 画面全体が白に転じ、無音となる。薄っすらと人の手の形をした像が中心にあり、徐々に下方に移動する。

08:38 | 再びPoI-3713の視点となる。PoI-3713は真暗な空間にいて、緑色の出口標識だけが視認される。PoI-3713は標識へ駆け寄り、対応するドアを求めて辺りを探る。背後から足音が聞こえる。PoI-3713は動きを止め、振り返る。

08:42 | PoI-3713はドアに背を向け、後ろ向きに押す。PoI-3713は戸口を通り過ぎ、極めて暗い草地に倒れ込む。遠方の森林越しに、太陽が沈む様子が視認される。PoI-3713は地面に1分あまり横たわり、草に触れ、太陽を眺める。太陽は青み掛かっているように見える。空は真黒なものの、星は存在しない。

09:49 | 画面全体が白に転じ、無音。

10:01 | 三回の弱いノックに続き、くぐもった短い発声が二回聞こえる。

10:04 | ステージを映すカメラに視点が戻り、小声でざわめく観客が聞こえる。

10:10 | 観客は静かにするように互いに言い合い、薄暗く照らされたステージは完全に暗転する。一つのスポットライトが点灯し、ステージの中央を照らす。観客は沈黙する。

11:15 | 画面は草地に移り、PoI-3713からの視点が再開する。背後でドアが開かれた音に休息を妨げられ、PoI-3713は太陽の方角へ走り出す。

14:49 | 太陽は目に見えて大きくなる。PoI-3713は立ち止まり、嘔吐する。

14:53 | 開始時と同様の視点に戻り、真黒の部屋に、窓を通じて極めて弱い青色の光が注がれている。窓の人影はこの時点でも確認される。空調の音と重なって微かな啜り泣きが聞こえる。また、"por favor"と何回か呟く声が聞こえる。

14:59 | 人影は後退し、窓から離れる。

15:00 | PoI-3713の視点から映像が再開し、太陽に向かって走り続ける様子が映される。太陽は通常の3倍の大きさに変わっている。

15:55 | この時点で太陽は通常の9倍の大きさとなり、その後ろに暗い領域が見える。

16:28 | PoI-3713は太陽と思われた存在に到達するが、それが異常に大きなスポットライトであることが明らかになる。PoI-3713は後ずさり、背後に空へ伸びる巨大なカーテンが張られていることを発見する。スポットライトに向き直り、PoI-3713はガラスを叩き、"por qué" (どうして)と叫んだ後、床に倒れ込んで膝を抱え込んだと推測される姿勢を取る。涙ぐむ声が聞こえる。

16:54 | 草のすれ合う音が生じて、PoI-3713は素早く頭を後ろに向ける。既に登場したフクロウの面を被った人型がスポットライトの前に立つと、スポットライトは消灯し、画面が暗転する。PoI-3713の悲鳴だけが聞こえる。

16:57 | 画面は空調機器のある部屋を映し、人影が窓を壊すとともに、ガラスの割れる音だけが聞こえる。

16:58 | 画面はスポットライトが照らされたステージを映す。音は聞こえず、動きは見えない。

17:22 | PoI-3713は足を引きずりながらステージの脇から現れる。少しの間、観客のざわめきが聞こえ、PoI-3713はスポットライトに照らされた位置に到達し、その中心に立つ。PoI-3713は深呼吸をし、体を震わせながら、観客を見回す。

18:02 | PoI-3713は少しよろめいた後に礼を行う。PoI-3713はその過程で複数回、体を痙攣させる。

18:05 | PoI-3713は頭を上げ、観客は拍手と声援を送る。PoI-3713が自身の体を抱きしめ、体を痙攣させる間、多くのバラの花がステージの上に投げ入れられる。

18:08 | PoI-3713は膝から床に倒れ、胆汁を吐き出す。観客は声援を送り続ける。

18:19 | 観客が拍手と声援を送り、バラの花を投げ入れる間、PoI-3713の三倍の大きさの手が(相当する大きさの腕と共に)上方の不明な場所から現れ、強引にPoI-3713を掴む。

18:21 | 観客が騒ぐ音が続く中で画面は切り替わり、"劇は終わりました!"と書かれた紫色のスレート板が映し出される。

18:26 | 映像が終了する。

<転写終了>

補遺3713-4 | 以後の異常現象
2024/11/02、セシリア・マルケス氏はPoI-3713の失踪を報告しました。調査の為に一名の財団エージェントが自宅を訪問しました。以下はマルケス氏を対象として実施されたインタビューの転写です。

インタビュー担当: エージェント・ミゲル
インタビュー対象: マルケス氏
実施日: 2024/11/03
付記: インタビューは居間で行われ、マルケス氏はソファに、エージェント・ミゲルは対面する位置の椅子に座っている。間にはコーヒーテーブルがあり、録音機が置かれている。インタビューはスペイン語で行われ、簡便の為に日本語に翻訳されている。

<記録開始>

エージェント・ミゲル: まず、カミラさんが逃げ出す兆候があったかどうか、その原因に心当たりがあるかどうかを聞かせてください。

マルケス氏: (間。)いえ、いいえ、無かったと思います。あの子は私に心を開いていました、自分でうまく説明できないことでも、私には言ってくれました。あの子は不機嫌な時も…少し残念なほど頻繁に、そういったことを私に伝えました。あの子は家から逃げようと思ったわけではありません。そんなはずはありません。

エージェント・ミゲル: 彼女がそうせざるを得なかった理由は何も思いつかないと?

マルケス氏: あの子も安定した状態になっていると思ったのに……

(間。)

エージェント・ミゲル: 彼女が家出をしたことは過去にありましたか?

マルケス氏: はい、とても小さかった頃に。(間。)

エージェント・ミゲル: 原因は何でしたか?

マルケス氏: (鼻を啜る。)カミラが三年生の時に、学校の劇がありました。(間。)あの子はうまくやっていましたが、ソロのパートにになって ― カミラはとても歌がうまくて、歌う機会は多くありませんでしたが、本当に天使のような歌声で ― それで…あの子は何もせずに立ち尽くしました。皆が見ている中で、ただ固まりました。

(マルケス氏は鼻をかむ。)

マルケス氏: ただの緊張ではありませんでした、分かるんです、母親の目からだとそういうことが感じられるんです。あの子はそこに立って、観客を眺めていました。あの子は動きませんでした。話しませんでした。ただ立っていました。先生は声を掛けて、あの子は先生を見下ろしました。私は助けられませんでした。声を上げて娘に向かって……「ハニー」と呼びかけると、あの子は走り出しました。ドアを抜けて、ひたすらに走っていきました。

(マルケス氏は再び鼻をかむ。)

マルケス氏: 私たちはカミラを追いかけましたが、誰かに捕まる前に、あの子は森に出ていきました……私たちには見つけることが出来なかったのです。夫が警察を呼んで森の捜索を行ってもらって、それであの子が切り傷と痣を拵えた状態で見つかって……喉には赤い痕がありました。青ざめていました。警察の人は自傷だとおっしゃいましたが、あの子はそんなことをしないはずです。カミラを連れ帰った後、あの子は三日三晩眠りました。

エージェント・ミゲル: 彼女はその時起こったことについて話しましたか?

マルケス氏: あの頃は、カミラは夫の方と仲が良かったから、あの人は聞いたんです。夫は、時間が経てば私にも話してくれるだろう、あの子のペースに任せるのが一番だと言っていました。私は知りたいとは思いましたが、夫に同意しました。でも時間が経つ前に……

(マルケス氏は鼻を啜る。)

マルケス氏: 夫は亡くなりました。ホアキン・マルケス。貴方みたいに、大きくて力強い人でした。働き者で。肺癌を抱えていました。タバコを。(間。)カミラが私に理由を言ってくれることがあったかどうかは分かりません。訊くべきだと思えるタイミングが無かったのです。ホアキンが亡くなって、あの子は別人のようになりました。自分で朝ご飯を作って、時間通りに宿題をやりました。バス停へ歩きました。あまり話さなくなりました。

エージェント・ミゲル: 彼女は過去に ―

マルケス氏: それ以来、あの子は夢を見るようになりました。あの子は時々ドアの前で立ち止まって、私が、どうして外に出たくないの、と訊くと、あの子は……見られたくないからと答えました。あの子は家でしか一人の感じがしないようでした。最近だとあの子は夜にしか買い物をしませんでした。あの子が言うには、昼間だと太陽が彼女を見つめているようだと。まだよちよち歩きだったころ、あの子は叫びながら目覚めて、落ち着かせようとすると、私が「振りをしている」んじゃないかと訊いたんです。時々、あの子は私が親じゃないという風に考えました。時々、誰も彼もが本人じゃないと考えました。

(間。)

エージェント・ミゲル: それで、彼女の失踪の原因には何も心当たりが無いと?

マルケス氏: いいえ。あの子は家出をしたりはしません。

エージェント・ミゲル: 他に言い残したことは?

(間。)

エージェント・ミゲル: きっと貴方の娘を見つけ出して見せます。きっと戻ってくるでしょう。

マルケス氏: 分かっています。はい。

(間。)

マルケス氏: 一つお見せしたいものがあります。

(マルケス氏は立ち上がり、上階に移動する。30秒後、彼女が階段を降り、再び座る音がする。プラスチックのこすれる音から何らかの物品が渡されたことが示唆される。)

マルケス氏: これがあの子の部屋のトイレにありました。あなた方の方が大事なので、警察には見せませんでした。私には分からなくても、あなたたちはあの子の何が問題なのか分かっています。お願いです。何か意味のあるものだと言ってください。

(間。プラスチックのこすれる音が生じる。)

エージェント・ミゲル: これは私たちにとって意味のあるものです。ありがとうございます。

マルケス氏: あの子を見つけてください、ミゲルさん。どうか。

<記録終了>

マルケス氏がエージェント・ミゲルに手渡したビニール袋には、吐瀉物、血(いずれもPoI-3713のDNAと一致)、様々な液体によって損傷した8枚のチラシが含まれていました。チラシに書かれていた小さい文字は判読されませんでしたが、もっとも原型を留めていたものには以下のように記されていました:

[…] が帰ってくる!大ヒットを記録したブル[…]ラム・ショー、ツアー中!まさしく今ツアー中! 帰ってきた[…]つまでも! 私達と共に見に行こう!さあ準備を、
オーディションは締め切られました!

ページリビジョン: 11, 最終更新日時: 29 Sep 2018 14:11
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